quo/to
2021春、古い街並みの残る明日香の土地でプライベートビューイングルーム「こぉと」をオープンしました。「こぉと」とは古いなにわ言葉で「渋い・地味だけれど品が良く人の目を引く」「渋くて趣がある」「質素で上品」という形容詞。今ではほとんど使う人もいない言葉ですが、その響きにはなんともえない趣があります。
私は何年にも渡りアートと暮らすうちに華美なものに惹かれることがなくなり、物事の”素”といったものに強く惹かれるようになりました。生活の中心にアートを据えることで住み手の心持ちに変化が生まれ、日々の生活の質を高めたくなる。けれどそれはお金かけることではなく自身のこだわりを貫く生き方を求めることです。アートと暮らすその先を提案したいと作り上げた空間に名付けた「こぉと」にはそんな想いが込められています。
奈良の土地でなにわ言葉というのも不思議に思われるかもしれません。これにはもう一つの理由があります。それは私が大切に育ててきた宝物のようなアートフェア「ART NAKANOSHIMA」。日本で一番小さなアートフェアですが、大阪で最も美しい場所である中之島を舞台に、洗練された上質な作品展示にこだわって毎年開催しています。この2つの場所、中之島と明日香は私にとっては最高に”気”の良い場所。そして私の愛する2つの場所を繋ぐ意味でも「こぉと」の言葉はぴたりとはまったのです。
今回の計画では古い日本家屋の一部を改装し昔からの部資材の一部を残しつつ、新たに加えるのは和紙・障子・塗り壁と日本の伝統的なマテリアルにこだわりました。優しい自然光が障子越しに差し込む中で聞こえる鳥の囀り、窓を開け放った時に空間は庭と一体化し気持ちの良い風が吹き込んでくる、そんな自然と共に存在するビューイングルームは1400年を誇る明日香の場所だからこそ実現したと言えます。ひとともり長坂純明氏設計による空間にはハタノワタル氏の和紙を用い、NEW LIGHT POTTERY永富裕幸氏の照明計画により洗練された和空間に仕上がりました。
華やかなアートシーンとはかけ離れたこの場所で、現代アートと暮らしの提案をするのも一興かと試みた新たなチャレンジ。この場所で提案するあれこれが現代アートと暮らしの関係性を深く掘り下げ、さらにはその理念を皆さんと分かち合うことができる場所でありますよう。
設計・インテリアコーディネート:
ひとともり(長坂純明)×奥村くみ
照明計画: | NEW LIGHT POTTERY |
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和 紙: | ハタノワタル |
施 工: | アイエム Burg Design Banker |
建 具: | 福嶋建具店 |
写 真: | 森山雅智 |
いけこみ: | みたて |